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――ドンッ、ドンッ、ドンッ!!
連続した爆発音が、深夜の都市に響きわたる。
いや、そこは都市と言うより軍事拠点と呼んだ方がしっくりくるかもしれない。要所要所に設置された迎撃システム、幾重にも張り巡らされた防御障壁などが、この施設が戦いを念頭に作られた場所である事を物語っている。
――ドンッ、ドンッ、ドンッ!!
しかし、この施設は既に拠点としての機能を果たせなくなっていた。
断続的に続く爆発音。崩れ落ちる建造物。吹き上がる火柱。
それは、この施設があげる断末魔の叫びであった。
今まさに、一つの軍事施設という名の都市が消えようとしていた。
そんな中に、彼女はいた。
レオタードを思わせる、体にピッタリとフィットした奇妙な戦闘服をまとった少女。
鋭利な刃物を思わせる、鋭く澄んだ切れ長の瞳。
その身体を包むのは、鮮やかな稲妻。
明らかに不自然な稲妻は、彼女の内より迸っていた。
その少女の周囲を、金属光沢を放つ1m程の機械――ドローンの群が取り囲んでいた。
戦闘用と思われるドローンは、彼女を包囲する輪を狭めながら、搭載された小型のバルカンで攻撃してくる。
少女はふわりと宙を舞うと、それらの攻撃を滑るように回避し、1体また1体と確実にドローンへと雷撃を放つ。
少女の攻撃を受けたドローンは徐々に数を減らしていった。
しかし、4割程度まで数を減らしたあたりで疲れが出たのか、ドローンの攻撃が彼女をかすめるようになり、少女の攻撃も正確さを失っていった。
取り囲むドローンを全て撃退する頃には、少女も相当の深手を負っていた。
少女は荒い息をつきながら、通信機を取り出す。
「こちらαチーム、ヴィクトリア、本部、応答を」
しかし、通信機から漏れるのはザーッというノイズだけだ。
「ふむ、本部も墜ちたのか」
なんの感情も感じさせない声で少女が呟く。
その途端、彼女の身体が大きく傾いだ。
――ドサッ。
「損傷が大きすぎるな。もって後数分と言うところか」
まるで人ごとのように呟く。
倒れた彼女の身体から、命を紡ぐ赤い雫が溢れ出し、大きな染みを作っていった。
「死か……。せめてあの命題の答えを出したかったな」
・惑星ソーウィル標準時、327年15日7戦闘時間。
惑星ソーウィル。
惑星の支配権を巡って人と機械が戦い続ける星。
もちろん、この惑星には「住人」と呼べるモノは存在しない。しかし、「意志」を持ち、増殖を続ける「機械」達が、いつの頃からかこの惑星に存在してした。
生命と呼ぶに呼べない存在を――人間とは違う行動原理を持つ彼らを恐れた人間は、彼ら「機械」を惑星から外に出さないため、そして滅ぼすために攻撃を仕掛けたのだ。
その戦いは、既に数世紀を経ようとしていた。
「作戦名クリティカルポイント、突撃傭兵部隊εチーム、ヴィクトリア、帰投した」
対「機械」前線基地パースの司令部に報告に現れたのは、煤や泥、血に汚れた1人の少女――ヴィクトリアだった。
「作戦は成功。敵兵力の96%を撃破。なお、εチームの損傷は50%」
「……そうか。生存者は、また、お前だけか」
指揮権を持つと思われる上級士官が一言一言区切るように呟く。
「ご苦労だった、次の作戦までゆっくり休んでくれ」
ヴィクトリアは、正規軍で行われる礼をとり、退出しようとする。
「すまない。だが、疲弊した今の状態で、あの場所を任せられるのは、お前しかいなかったのだ」
絞り出すような情感の言葉が、ヴィクトリアの背に向けて放たれる。
「気にするな、私は傭兵だ。命令とあれば従う」
なんの感情も感じさせない口調で答える。
上官は、まだ怒りや悲しみを露わにされた方が楽だと感じた。
いつも生死の境目ギリギリの戦場へと送り込んでいるのは自分であり、そのつど彼女はチームメイトを失い続けている。今では、彼女と組みたがる兵士は殆どいない。
それもこれも、全て彼女が有能すぎたせいであろう。
有能すぎるが故に過酷な戦場へと送られる。そして有能であるが故に生き残る。生き残ればまた評価をあげ、さらに過酷な戦場に送られる。同道巡りだ。だが他に道はない。
「ヴィクトリア!! キールは……キールはどうしたの!?」
司令室を後にしたヴィクトリアに、声がかかる。甲高い女性の声だ。
「リーヴィとセイか」
振り向き、声の主を確かめるヴィクトリア。
リーヴィと呼ばれた女性は、今にもヴィクトリアに掴みかからんとしており、それをセイと呼ばれた女性が抑えていた。
同じ傭兵仲間のリーヴィとセイ。これにキールを加えれば、彼女たちのいつものメンツとなる。もっとも、能力に差がありすぎるため、ヴィクトリアが作戦行動を同じくすることは殆どないが。
やがて、セイの腕を振り解いたリーヴィがヴィクトリアの身体を掴み激しく揺さぶる。
「ねぇ! キールは!! 彼、あんたと一緒だったんでしょ!!」
「リーヴィ、よしな!!」
「彼は戦死した」
ヴィクトリアは当たり前のように呟く。
セイはそれを当たり前のように受け止める。
しかし、リーヴィは大粒の涙を浮かべながらヴィクトリアを睨み付ける。
「ヴィクトリア……あんたがキールを殺したんだ!! あんたなんかのパートナーにならなきゃ……キールは死なないですんだのに……」
なおもヴィクトリアを責めようとするリーヴィをセイが押しとどめる。
「もうやめときな。キールが死んだのはヴィのせいじゃない。今回の作戦……戦死者の方が多いんだ」
「でも、でも……」
「それに、ヴィのパートナーになったのは、キールの意志だよ」
その言葉を聞いたとき、リーヴィの表情がさらに険しくなった。
『だからよけい許さない』
ヴィクトリアは、そう言われた気がした。
「どうして……キールが死ななきゃいけないの? 私はあんたを絶対に許さない!!」
リーヴィはヴィクトリアの頬を思いっきり平手で打つと、そのまま走り去っていった。
(確かに、私などと行動を共にしなければ――私の進行ルートでなければ、彼の実力なら死ぬ確率はもっと低かっただろう)
「やはり……私のせいなのだろう」
打たれた頬をさすりもせずにヴィクトリアが呟く。
「ヴィ、気にしなくていいよ。あの娘、キールの事を慕ってたから。大丈夫、今は興奮してるだけだから、そのうち判ってくれるさ」
「判る……? 何を?」
「ヴィ、あなたが悪いんじゃないって事が、さ。今回の事は、あなたが悪いんじゃない。誰も悪くないんだよ。あえて言うなら、キールが無謀だった……それだけだよ」
幼子に言い聞かすような優しい口調。
何やら考え込んでしまったヴィクトリアの肩をポンポンと叩くと、セイはリーヴィの後を追っていった。
(リーヴィは私のせいだと言った……。だが、セイは私のせいではないと言う……。一体答えはどちらなのだろう? 私のチームが生存率が低いのは確かだ。だが、キールはそれを知っていた。しかし、彼を守れなかったのも――私のせいで死なせてしまったのも事実だ。リーヴィ、セイ……誰の言葉が正しかったのだろう?)
そこまで考えた時、ふと、キールの言葉が蘇った。
『どうせまた1人で出撃なんだろう? 俺が同行しても構わないか?』
同行する味方もなく、単独任務になるはずだった。
『俺がお前を守りたかったんだよ』
理由を尋ねたら、彼はそう答えた。
『気にするな……俺は……お前を守る事が出来て……満足している……』
彼はヴィクトリアを庇って命を落とした。
しかし、その時の彼の顔は、とても満ち足りた表情を浮かべていた。
「誰の言葉が正しいのだろうな。ふむ、これは重要な命題だな」
それから三日後、出撃命令が下った。
大規模な侵攻作戦が開始されたのだ。
・惑星ソーウィル標準時、327年20日5戦闘時間。
上級士官達が兵士達に熱く言葉を紡ぐ。
今回の侵攻作戦は、この惑星の歴史に残るだろう、と。
「機械」達の本拠地を直接叩くという、ある意味無謀な作戦。
しかし、ここ数十年の間、均衡を保ち続けた戦力バランスを大きく崩すためには、大規模な侵攻作戦が必要だったのだ。戦いに終わりがあることを兵士達に知らしめる為にも。
「ヴィクトリア、あんたまた最前線なんだって?」
出撃命令がくだり、集合した兵士達の中からリーヴィが声をかけてきた。
「いい気味ね! キールを殺した報いよ! あんたなんて……帰還しなくていいわ!」
言うだけ言うと、リーヴィは自分の部隊へと戻っていった。
その彼女と入れ替わるように現れたのはセイだ。
「あの娘ったら……悪いね」
「いや、セイが気にすることではない」
ヴィクトリアは淡々と応じる。そして、『まだ答えは出ていないが』と付け加えた。
「答え?」
突然発せられた単語に対して、セイが反射的に聞き返す。
「うむ、今の私の命題だ」
セイは、『そう?』と首を傾げつつもそれ以上深く訪ねるのを止め、本当に伝えたかった言葉をヴィクトリアに伝えた。
「ヴィ、必ず、生きて帰ってきな。キールに救われた命……無駄にしないで」
「死ぬつもりはない」
「その言葉、信じてるよ」
軽く肩を叩いて去って行くセイ。
反射的に答えたものの、ヴィクトリアはまた少々混乱していた。
『キールを見殺しにしたのだからお前も死ね』『キールが助けたのだから必ず生きろ』という、相反する二つの言葉。
「これもまた命題の一部か」
呟くヴィクトリア。
その言葉をかき消すように、出撃のサイレンが鳴り響いた。
・惑星ソーウィル標準時、327年21日0戦闘時間。
ヴィクトリアは、傍らに立つ誰かの気配で意識を取り戻した。
「ふむ……まだ生きているようだ。我ながらしぶといものだ」
誰に聞かせるわけでもなく呟く。
しかし、その言葉を発した瞬間、傍らの人物がヴィクトリアに気が付いたようだ。
「あらぁん、生きてたの?」
人を小馬鹿にしたような女の声。
「うむ。ところで、お前は誰だ? 見覚えがないが?」
霞む視界に捉えたのは、肉感的な金髪の女性。不敵な笑みを浮かべ、自分と周囲の状況を楽しむように見つめている。
「まず、自分から名乗るのが礼儀でしょぉ?」
甘ったるい口調。しかし、同性をも引き込む蠱惑的な魅力がそこにはあった。
「私は、ヴィクトリア=ネルソン。傭兵だ」
ふぅん、とさして興味もなさそうに答える。
「そんなことより、何やってるのよん。こんな何もない星で?」
ヴィクトリアは、苦しい息の中で今までの状況を簡潔に語った。
数世紀前から人と機械が戦い続けていること。自分が傭兵としてこの地を訪れたこと。命運をかけた大侵攻作戦に破れたこと。そして……。
「私もまた、戦いに敗れ、今まさに死のうとしている」
と、自分の事で状況説明を締めくくった。
それを聞いた女性は、何事か考え込んでいるようだった。
やっと質問を受けなくなったヴィクトリアは、逆に質問してみた。
「お前は……何故、ここに?」
「昔のあたしの……尻拭いかしらねぇん。まぁ、昔はあたしも若かったって事ねぇん」
いまいち意味の分からないことを語る女性。
聞いたヴィクトリアもたいして興味がない質問だったのか、それきり口を閉ざした。
「ねぇん、あなた、他に言うことがあるんじゃないかしらん☆」
「他に?」
「そうよぉん。助けてくれとか、手を貸してくれとか、手当を頼むとか色々よん☆」
「ふむ……それも良いかもしれない。だが、司令部も潰され、雇い主を失い、この惑星を出るための足もない。今ここを生き延びても、意味はないな」
司令部なき今、この惑星から出ることは不可能だ。まして、他の惑星から増援が訪れるまで、生き抜くことも不可能だろう。
「なら、死にたいのかしらん? それなら邪魔はしないわよん」
女性は、そう言いながらも立ち去らずにヴィクトリアの答えを待つ。
まるで自分が必要だろうと言わんばかりに。
「そうだな…それでも、私は生きたいのかもしれない。解かねばならない命題もある」
無駄と知りつつも今を生きることを望む。ヴィクトリアは、『我ながらおかしな事態だ』と想いながらも、死を選ぶことは出来なかった。
「なら、助けてあげるわよん☆ それと、今からあなたをあたしが雇ってあげるわん」
何か問題がある? と悪戯っぽく微笑む。
「雇い主なき今、お前が私の新しい雇い主だ」
「交渉成立ねぇん。この程度の傷、このオルガ様にかかれば、あっというまよぉん☆」

・現在……惑星ソーウィル標準時で、329年189日6戦闘時間。
「そう言えばオルガ、何故、あの時私を助けた?」
宇宙船のブリッジでヴィクトリアが思い出したように呟く。
「あの時?」
「初めてあったときだ」
少々ばつの悪そうな顔を見せるオルガ。
「そうねぇん、ヴィが、まだ死にたくなさそうにしてたから……じゃダメかしらん?」
答えを聞いたヴィクトリアは、『ふむ』と呟き、何事か考え込んでいる。
そして、しばらくしてから何か思いだしたかのように、ポンッと手をうつ。
「あの時、聞きそびれたのだが……何故、惑星ソーウィルに? それに、『若かった』とはどういうことだ?」
さらにばつの悪そうな顔をするオルガ。
「言ったでしょぉ、尻拭いだって。昔、あたしが作った資源探査船と採掘ロボットが、勝手に進化して、勝手にあの惑星上に文明もどきを作っちゃったのよん」
その事実に長いこと気がつかないでいたのだが、あるきっかけでそれを知ってしまい、仕方がなく、かたを付けに出向いたのだ、と。
「『機械』達の生みの親は……」
「それよりもヴィ! あの時言ってた『命題』って何かしらん? 答えはでたの?」
「ふむ……お互い、痛いところをついたようだ」
「みたいねぇん。お互い昔話は止めましょう☆」
(命題……か。私はまだ、その答えを見つけていない。果たして、答えが出る日は来るのだろうか? そしてキール。彼は何故、私を守りたいと言ったのだろう。私を守って死んだ彼は……何を考えていたのだろう?)
答えのでない問答を頭の中で繰り返すヴィクトリア。
ふと見上げたスクリーンに、辺境の恒星系に属する、3番目の青い惑星が映っていた。
蒼く輝くその星に、ヴィクトリアは何となく、答えがあるような気がした。
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