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――リリリリリリリリリリリリィィィィ!!!!
脳味噌を直接揺さぶるような、けたたましいベルの音が朝の静寂を破る。
誰!? こんなうるさいモノを鳴らしているのは?
朝のボケた頭をフル回転させて、現状を把握する。
……ああ、あたしだっけ。
今日は大切な日だから、絶対に寝坊しないように、あたしが目覚ましセットしたんだ。
でも、そのことに気が付くまで、軽く5分はかかった。ヤバイ、目が覚めてない。
何とか目覚めるために、顔を洗おうと決心する。
いまいち頼りない足取りで洗面所に向かうと、鏡の中のあたしと目が合う。
う〜ん、まだまだ子供っぽいなぁ。
鏡に映し出されたあたしの顔は、大人と呼ぶにはまだ子供っぽさが抜け切れてない。
かといって、子供独特の「あどけなさ」なんて残っていない。何とも中途半端だ。
「やっぱり、あと5,6年くらい経たないとダメかな?」
思わず声に出して呟いてしまう。
「25,6にもなれば、もう少し、魅力出ると思うんだけどな。」
言ってもしょうがないことを呟きながら、身だしなみを整える。
寝起きで爆発していたクセのある金髪をまとめ上げ、軽くメイクする。
今日ぐらいは、きちんと決めておかないとね!
――ああ、まただ。どうして、忘れることが出来ないんだろう……?
――思い出したくなんて無いのよ……。
おろし立ての制服――って言っても、なんか白衣みたいな簡単なヤツなんだけど――を着込んで、あたしは今、ある一室のドアの前に立っている。
胸がドキドキする。
落ち着くために、大げさだけど深呼吸。
よしっ!! いざっ!!
――ガラガラガラッ!!
「しつれーしまーす!!」
「本日付けで、この研究室に入ることになりました!!」
部屋の中にいた先輩の研究員達が驚いてあたしを見つめる。
その視線の中に……いたっ!! 彼だ!!
あたしがきっとこうやって登場することを予測してたのか、笑いを押し殺しながらあたしを見つめている。
あたしは先輩研究員にひとしきり歓迎を受けた後、彼の前に立つ。
緊張して頬が染まっているのが自分でも判る。ヤダ、子供みたい。
彼は、子供の頃からそうしていたように、あたしの髪をくしゃくしゃとかき回す。
せっかくセットした髪が乱れてしまったけど、あたしは気にしない。
だって、嬉しいんだもん。
――子供よね……この頃はどうして、他人なんて気にしてたのかしら?
彼と同じ研究室になってからの毎日は楽しかった。
研究グループは別々になっちゃったけど、毎日彼と顔を合わせられるだけで幸せ。
4つも年上の幼なじみ。
いつもいつも、彼の後ろを付いて歩くことしかできなかったあたし。
でも、今はすぐ近くにいる。
隣に立ってないのが不満だけど……でも、いいの。
こんなに近くにいるんだもん、あたしは満足。
ただそれだけで幸せなの。
ああ! 幸せすぎて、実験用のビーカーさえも愛しく感じちゃう!
――満足? 一体何に満足してたのかしら?
目の前に、彼が立っている。
いきなり呼び出したりして、変な風に思われてないかな?
それに、今日のあたし……メイクとか、服とか、気合い入れすぎたかな?
でも、これくらいやらないと、勇気が出ないんだもん。
そう、あたしは決心したの。
今日、彼に告白するって。
「あっ、あのっ!!」
頭はボーっとしちゃってるし、胸はドキドキしっぱなし。
自分で何を言ってるのか判らない。
……伝わったかな?
彼が答える代わりに、あたしの頭をくしゃくしゃとかき回す。
そして一言だけ、「OK」と呟いた。
やったぁ!!
――あたしは本当に好きだったの? そもそも「好き」って何よ?
あたしが告白してから半年くらい経った頃かな?
研究チームが再編成されて、彼と同じプロジェクトチームになったの! やったぁ!
告白する前は、同じ部屋にいるだけで満足だったけど、今は同じプロジェクトじゃないと満足できないの。ちょっと、欲張りになっちゃったかな?
そんなある日、教授から呼び出されちゃった。
う〜ん、なんかヘマやったかなぁ?
あたしなりに緊張した面もちで(ホントよ!!)教授の元を訪れる。
怒られることを覚悟してたあたしの耳に飛び込んできたのは、思いがけない一言。
「ほ、ホントに……ホントにあたしの研究が認められたんですか!?」
あたしの論文、正式名称は「空間歪曲における超空間的……」あとなんだっけ?
えっと、一言でいえば、ワープ機関に関する事よ。
そっか……あたしの研究……認められたんだ。
……あれ? でも、理論は違うけど、同じ研究を彼もしてたハズだけど……?
――バカよね。この程度の研究結果で……喜んで……それで、悲しむなんて。
彼があたしを露骨に避けている。
同じ研究室なのに……同じ研究なのに、一言も言葉を交わさない日が続く。
彼の声が聞きたいのに……彼の眼差しを受け止めたいのに……。
思い切って、彼に声をかける。
イヤな結末を向かえるのが怖くて、ずっと聞けなかったことを聞く。
……彼は、目を伏せながら一言……。
「ごめん。」
と言った。
どうして? どうしてなの?
――彼は、あたしが追いつくのは許しても、追い越すのは許さなかった。
――ただ、それだけ。
「ええ!? な、なんであたしの論文を……教授の名前で発表するんです!?」
教授は、うるさそうにあたしを睨みつけた。
そして教授は言う、女の研究したものなんて正当な評価を受けられない、と。
そんな……実験だって成功したのに……。
スポンサーだって、付いてくれるっていってたのに……どうして?
「とにかくアレは、『私』の研究室で得られた結果なんだ。」
だから、アレは自分の手柄だと……そう言いたいの?
アレは……間違いなくあたしの研究成果なのに……。
あたしを認めてくれたから、研究室に入れてくれてたんじゃないの?
――手柄が欲しかった。
――不可能だと思われていた「ワープ」航法。それを見つければ歴史に名が残る。
――野心家なら……男なら、誰でもそう思う。
どうして……どうしてなの?
――しょせん、男達なんて……こんなモノよ。
「女のクセに科学者だなんて……」
教授の口からこぼれた言葉。生意気だって言いたいの?
どうして、あたしじゃ……女じゃダメなの?
――女が科学者で何が悪い?
「ゴメン……今はお前のこと……考える余裕がないんだ」
あたし達、恋人でしょ? どうして、そんなこと言うの?
どうして、競い合うような事しなきゃならないの?
――優れた者への嫉妬? あたしが自分を追い越した事への憤り?
あたしは……ただ、研究したかっただけなのに……。
彼に、認めて欲しかっただけなのに……。
どうして……どうしてなの?
――なら、認めさせてやるだけ。
あたしが誰よりも優れていることを……。
――そう、誰よりも私は優れている!!
誰よりも?
――誰よりも。
そう……そうね。認めさせなきゃ……。
――あたしが誰よりも優れていることを。
あんな男どもに負けないって。
――あたしに出来ないことなんて無い。
あたしを理解しようとしなかったヤツらなんて……もういい。
――所詮、あいつらは単純なヤツら。
理解できないものを抱えている、哀れな存在。
――でも、あたしは、ヤツらのようにはならない。
あたしに……不可能なんて無い!!
――リリリリリリリリリリリリィィィィ!!!!
けたたましい警告音が、あたしの意識を現実へと引き戻す。
「ハイパードライブ終了だよぅ!!」
ちょっと舌っ足らずな声が耳に響く。
続いて、押し殺した低い声が、それに答える。
「うむ。マルグレーテ、状況は?」
「んとね……座標のずれも……各機関にも問題ないよぉ。」
「そうか。」
ハイパードライブの時はいつもこれなのよね。
思い出したくもない事を――忘れてた事を思い出させられる。
いっそのこと、ワープ航法そのものを作り替えちゃおうかしら?
そうね……いっそのこと、エンジンそのものもいじって……。
「ねぇねぇ、ヴィクトリア。どしたのかな?」
マルグレーテが、あたしをのぞき込んでいる気配がする。
仕方がないわね。そろそろ起きようかしら?
「なんでもないわよぉん☆ それより、ヴィ、マル、何か楽しいこと、思いついた?」
「面白いこと? それは、例のエネルギーを利用して……と言う事か?」
冷めた目つきの少女――ヴィクトリアが訝しげに聞き返す。
「はい、はーい!!」
まるっきり子供のような少女――マルグレーテが嬉しそうに手を挙げる。
「あのね、あのね、例のエネルギーって、確か出力に上限がないんだよね? だったら、お星様一つ、丸々ゾンビにしてみたら面白いかな?」
「不可能ではないな。」
ヴィクトリアが適当に相づちを打つ。
そうねぇ……それも面白そうよね。
それに……思い出したくない事、思い出して、今ちょっとブルーだし。
八つ当たりには丁度いいわね。
「決まりねぇん。」
「ええ!? ホ、ホンキなのぉ?」
マルグレーテが慌てているようだけど、とりあえず無視する。まさか適当な思いつきを実行するとは思ってなかったんでしょ? 甘いわね。
「もちろん本気よぉん。宇宙一の天才科学者、オルガ様に二言はないわよん。」
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